所定の位置に煙幕を張って待つこと数分。
先程までの静けさを破り、上空の大気を叩き落すような羽音が近づいてきた。
大型の鳥竜種、ではない。
視認するまでもなく肌で感じる、この桁違いな重圧感は間違いなく飛竜種のソレ。
顔を出して直に確認したい欲求を抑える。
ホントは真っ向勝負・全力投球・徹底抗戦が私の性分なんだけど、残念な事に今回はちょっと分が悪い。
それに勢いこの場で出て行ったりしたら、せっかくの打ち合わせも下準備も全て台無しになっちゃう事だし。
今は身を隠し、気配を殺し、息を潜める。
どうせ長い戦いになるのだ、身体を動かす機会は後で幾らでも回ってくる。
上空から見ても、それは異様な光景だった。
草原から丘を越えて森林地帯に通じる経路の一つに大量の煙が立ち込めている。
希に見る火災の類、ではない。
瑞々しい草木を焼いてこれだけの煙を発生させているのなら、付近では確実に炎の色が見て取れるからだ。
煙は空に登る事無く一帯を霞み隠している、奥の様子を見通す事は卓越した飛竜の視力を以っても困難だろう。
距離を詰めれば羽ばたきの際に巻き込んでいる風圧で鬱陶しい煙も排除できるのだが・・・
自然界では発生しえない煙の領域、飛竜に警戒を抱かせる理由としては十分過ぎた。
ここまで露骨な”何者か”の誘いを素直に受けたとして、万に一つも接近を許し手痛い反撃を受けたとあれば”空の王者”の二つ名も形無しである。
中空に浮翔したまま、飛竜は僅かに口元を歪ませる。
それは人語に訳するならば、『我ながら実にくだらない事で悩んでいるな』と自嘲している様だった。
飛竜の無骨な顎が開かれる、次いで周囲の大気を全て吸い込むような一動作。
その姿、その気配はまるで限界まで引き絞られた大弓にも似て――
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